
去る9月25日、「愛・地球博」が185日間の開催期間を終え、盛会のうちに幕を閉じた。9月に入ってからの入場者数はほぼ毎日15万人を超え、最終日には20万人を超す盛況となったという。
そんな華やかなフィナーレを迎えた万博とは対照的に、淡々と幕を引こうとしている、とあるオンラインサービスがある。
パソコン通信方式(TTY)の商用データベースサービス「G-Search」だ。
手前味噌で恐縮だが、商用オンラインデータベースの変遷を簡単に振り返ってみたい。
インターネットのない世界
パソコン通信版のG-Searchは、国内大手商用データベースサービスのひとつとして、古くは1989年にサービスを開始した。新聞・雑誌記事、企業情報、特許、科学技術、図書、人物プロファイルなど、さまざまな分野の情報を扱ってきた。
今でこそ、日常生活やビジネスで必要な情報はインターネットを介して手軽に入手でき、ネット上の膨大な情報から自分が興味があるニュースだけを抜き出して読むことも可能だ。
だが、インターネットどころか電子データの蓄積・検索という概念も一般にはほとんど浸透していなかった時代、ビジネスに必要な情報収集の主な手段は、新聞・雑誌の切り抜きであった。過去の記事から必要な情報を得るには、図書館へ出かけて行き、縮刷版・マイクロフィルムなどで目で探すという、今考えると気の遠くなるような作業が主だった。
事態は1980年代に一変する。ワープロの普及により、記事の電子データが蓄積されるようになると、それを検索サービスとして二次利用する動きが広がった。
新聞記事以外の分野でも、新たな通信手段としてのパソコン通信が普及するにつれ、国内外の科学技術・医薬文献やビジネス・図書情報などのサービスが徐々に普及していった。
今では大げさに聞こえるかもしれないが、まさにドラえもんの道具にも等しいインパクトと利便性を与えてくれた、魔法のツールであったのだ。
リニアか、インタラクティブか
データベース化された膨大な情報に、自宅にいながら接続できるツールとして、電話回線とモデムを介して接続するパソコン通信サービスがあった。
初めは「巨大な電子図書館」としてのツールという認識で受け入れられていたパソコン通信だが、次第に双方向のコミュニケーションのためのツールとしての役割が注目されていく。
※パソコン通信自体の歴史については、インターネット上によくまとめられたサイトがあるのでそちらを参照していただきたい。
掲示板・チャット・メールなどのコミュニケーションやオンラインショッピング等を主眼としたPC−VAN、ニフティサーブ、アスキーネット、ASAHIパソコンネット・・・などのさまざまな大手パソコン通信サービスの中、G−Search、日経テレコンなどの専門情報提供に特化したサービスも独自のスタンスで事業を展開した。
一口にデータベースと言っても、作り手によって検索・キーワード付与のルール、使用するコマンドや入手可能な情報の種類と形式、検索ロジックの癖にいたるまで、それぞれに個性を持つ。通信時間に対し従量料金がかかるため、データベースの特性を把握していないと検索に手間がかかり、料金がかさんでしまう。
国内外のデータベースシステムに精通し、検索を専門に行うサーチャー(情報検索技術者)や、検索の専門サービスも現れた。1987年には、データベースの作り手やベンダーに対するユーザの存在をアピールする目的で「サーチャーの会」が設立された。
現在では、インターネットブラウザを介したデータベースが一般化し、検索画面もより簡便になり、検索者はマウスクリックのみで簡単に検索ができるようなサービスが一般的となったが、当時はまだ、データベースを検索して必要な情報を効率よく得るには、特殊な知識と経験を持つサーチャーに頼るしかなかったのである。
中身は一緒、でも・・・
1990年代に入ると、更に状況は一変する。
新たな通信手段であるインターネットの普及により、Webの特性を活かした分かりやすいインターフェースや、それまでは不可能だった画像・音声などをパソコンで閲覧できる新しいデータベースサービスの提供が始まった。
ユーザは検索画面にアクセスし、画面の中の指示された項目をチェックしたり、キーワードを入力したりするだけで、検索結果が画面上に現れる。これが従来の情報検索に対するイメージを一新した。特別なソフトウエアやコマンドの知識は不要となり、検索の初心者でもほぼ欲しい情報が得られるため、エンドユーザの枠を大きく広げた。
例えるなら、行き付けの図書館の司書が、気難しく耳が遠い明治生まれのお爺さんから、愛想がよく素直な若い女性に替わったようなものだ。
ただし、ユーザのインターネット接続環境によっては従来のパソコン通信方式の方が早く大量のデータを表示できることや、複雑な条件を組み合わせた検索がしやすいことから、この時期を境に、従来のシステムを使い続ける人と、新規にWeb版のデータベースを使い始める人とに二層化していった。
その後、インターネット通信技術向上による速度改善や、Webならではのサービスの多様化する中、2002年にパソコン通信版の「日経ニューステレコン」が終了、Webの「日経テレコン21」に完全に移行となった。
次いで2005年9月、大手ベンダーのひとつであるジー・サーチでも、パソコン通信版の「G-Search」の提供を終了し、Web版のサービスに完全に移行することとなった。
パソコン通信方式のサービスを提供しているベンダーは今も国内外で多数存在するが、年を追うごとに少なくなっている。一方、パソコン通信データベースの根強いファンも残っていることは確かだ。
将来、Web環境で動く高速のコマンドデータベースが開発されることを淡く期待しつつ、今後のデータベースの発展を見守りたいと思う。